mahirossimo

このブログはとある人が考案した「餃子たん」なるジャパンカップサイクルロードレース非公式キャラクターをきっかけに推しに会ったり推しに帯同したり推しの本を作ったりした人のブログです。noteから引っ越しました。 ●Special and big thanks : 家路を急ぐ(grupetto82)さん●

ツール・ド・フランス2015帯同記 通販のご案内

コミックマーケット96にて発行しました、ツール・ド・フランス2015帯同記「餃子隊員、お抱え絵師としてツールへ行く。」の通販ご案内ページです。
(2020/05再販しました)

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「餃子隊員、お抱え絵師としてツールへ行く。」
(A5/88P/オンデマンド印刷)
「推しと推しチームに似顔絵と餃子たんステッカーをプレゼントしたら、チームからお声がかかってその年のツールに帯同することになったファンの手記」です。
実に恥ずかしい私小説です。
でもこれを記録に残しておくことであの年の私が成仏すると思ったので作りました。
試し読みは以下 からどうぞ。

mahirossimo.hatenablog.com

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「別冊付録ろおどれえす落語」
(A5/36P/オンデマンド印刷)
アンディ・シュレクとロードレースの狂気にまつわるファンタジー落語(意訳)」です。
こちらは友人であるカンチェさん(ファビアン・カンチェラーラ氏ではない)がブログにて発表されたものをお願いして発行させてもらいました。
めちゃくちゃ好きなのと、思うところがあって一緒に読んで欲しくて本にしました。

以上2冊をセット(送料込み)1700円で頒布いたします。

以下のフォームより必要事項を記入の上送信してください。
折り返しお支払いのご案内をお送りします。
三井住友銀行かゆうちょ銀行への振り込みになります)
おまけとしてIAMサイクリング本のときに作ったポストカードがつけられますので、必要な方はフォームにてチェックをお願いします。

不明な事があれば、twitterアカウント(mahiro_aok)か以下のメールアドレスまで
mermuur13noir☆gmail.com(☆→@)

 

餃子隊員、展示される

餃子隊員2015年の旅の記録から抜粋したイラストと写真、そしてチームと一緒に制作した本が「オトナ工芸魂2020」にて展示されます。
餃子隊員の母校OBによる展覧会です。

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(展示イメージ:撮影場所は自宅)

IAMサイクリングと一緒に作った本「ロードマップ」(詳細はこちら)も一緒に展示していますので、中身を見てみたい方、近隣の方がいらっしゃいましたらぜひ足を運んでみてください。

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諸先輩方(時々後輩)の展示もバラエティに富んでいてすごく刺激を受けるので、私も見に行くのが楽しみです。
私は土曜の午前中に急ぎ足でお邪魔する予定です。

会場:ホルベインギャラリー
10/1-5 11:00-18:00
10/6 11:00-16:00
(最寄り駅 地下鉄 谷間九丁目、近鉄大阪上本町駅)
※ご来場の際はマスクの着用、手や指の消毒をお願いいたします。
混雑時は入場制限させていただく可能性がございます、あらかじめご了承ください。

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オトナ工芸魂 大阪市立工芸高等学校、大阪市立第二工芸高等学校、大阪市立デザイン教育研究所の在校・卒業生と、現旧教職員による有志の集まりで www.kougeikai.net
オトナ工芸魂 オトナ工芸魂 - 「いいね!」730件 · 157人が話題にしています - 大阪市立工芸高等学校、大阪市立第二工芸高等学校 www.facebook.com


【TDF帯同記 試し読み05】酷暑のツールより餡を込めて

 滞在三日目。

 いよいよ第一ステージの朝だ。

 準備を整えて朝食会場へ。

 そうしたら神妙な顔をしたRoxaneとThibaultに囲まれ、

「ツールは大事なレースだから、選手の邪魔をしないように」

 と釘を刺される。

 ハイ…と頷きながら、(そんなのわかってますよおおおお)と内心のたうち回っていた。邪魔できるほど度胸ないよ!

 でも、まあ、プロのジャーナリストでもフォトグラファーでもないただのファンの女の子をチームに帯同させるなんて前代未聞だろうし、きっとその決定もCEOあたりの思いつきとか、そういうノリで、現場のスタッフはただでさえ忙しいのに! みたいな心境なのだろうなあと感じた。私は私のやることをやるだけだと昨日決意したばかりだったけど、やはり気が重かった。

 とりあえず写真だけいっぱい撮っていこう。サインとかツーショとかお触りは諦めるぞ…。来れただけで幸せなんだ。そんなことを考えながらロビーをぶらぶら、ツイッターに「まだ選手に紹介されてないよー」なんてつぶやいていたら、突然Roxaneに呼び止められた。

 えっまだ何かあるの。

「今いい? 選手に紹介するから!」

 待て待て待て。心の準備ができてねーわ!! と言ってる間に連れて行かれたのは廊下のソファ。

 座っていたのはシャヴァネルだった。

 ウオオオオオイ大本命からですか!!!

 やめて…無理…心臓止まっちゃう…って言って逃げてもいられないのでのろのろと彼の目の前まで行く。

 私に気付いたシャヴァネルは、ミラノで会ったときのように柔らかく目を細めた。

 ああ~~~~~ラフなチームポロシャツ姿がカッコいいんじゃあ~~~~~~。

 Roxaneが(たぶん)彼女はこのツールのことを本にするためにやってきたイラストレーターで、帯同して取材をするよ、みたいなことをフランス語で説明してくれたので、なんとかこれだけは、と覚えたフランス語で、じゅまぺーる餃子隊員(本当はあたりまえだけど本名を言った)、と自己紹介をする。

 頭の中は、推しがいる!!! 推し!!! 近い!!! でいっぱい。

 そしてフフ、と笑い声をもらした推しの口から出てきた言葉とは!!!

「じゅまぺーるしるゔぁん」

 存じ上げております!!! お茶目!!! かわいい!!!

 そして追い討ち、死体蹴りが続く。

 やめて…餃子隊員のライフはもうゼロよ…。

「ミラノで会ったよね。ねえ、新しいステッカーはある?」

 なんと、彼が口にしたのは英語だった。

 えーーーーーー!!! 英語じゃん!!!

 このひと英語を言うの!? クイックステップ時代、英語で数字を数えただけでスタッフがどよめいた男だよ…?

 私がフランス語わかんないから…英語を言ってくれたの…?

 いやそれより、開口一番にステッカーか…推しそういうところだぞ…私に限らず、日本人のファンはステッカーを配る民族だと思われていないか? 自業自得なんだけどさ。

 そういう心情は表に出さず、というか出せず、ほとんど反射で提げていたサコッシュからステッカーを取り出して渡す。

 それで、あの人なんて言ったと思います?

 メルシー、じゃなくて、サンキューって、言ったんですよ。

 ほんとあなたそういうところだからさあ…人たらし…好き…。

 これでもう全部やりきったぐらいになってしまった私は、握手もツーショットもサインも求めずに終わらせてしまった。

 バカ…。

 そして心臓痛い…となっていたら、そのまま朝食中の他の選手のところへも続けて連行された。

 待って待ってキャパオーバー。

 大事なレースの初日だというのに、みんなにこやかに挨拶してくれて良かった。ピリピリしている空気はない。

 これはツールを通しての印象なのだが、とても朗らかで牧歌的なチームなのだ。当然、真剣な表情で話し合っていることはあるが、根底にあるのはそういう雰囲気だった。

 再び自己紹介をしながら、ステッカーを配る…配る…。

 クレメントとウィス、エルミガーがいなかったので、彼らには会えなかった。みんなそれぞれ朝食に降りてくる時間が違うのね〜と思う。自分のルーティンがあるのだろう。

 朝食会場で挨拶ができた選手の中で、パンタノはすぐにインスタにステッカーの写真をアップしてくれる。人並みに絵描きとしての承認欲求はあるので、褒めてもらえると嬉しい。

 今回、せっかくの大舞台だからとツールへ出場する選手全員分の似顔絵を用意したので、絵を描くために全員の名前と経歴はざっくり覚えられたのですごいよかった。描けば覚える。描いて覚える。絵描きの特技であり、特権だなと思う。

 これで自信をつけた私、そういえばチームウエアとかをあげるからと言われたので、着替えの服は必要最低限しか持ってきていないのですが?? ということを思い出して、Roxaneに聞いてみる。

 すると、そんなものはない、余剰はない、と一蹴されてしまった。

 あーーーーーこれAlfonsoからもろもろ伝わってないやつ!伝わってないやつだ!!

 いや…いいですけど…なんとかします…そっか…となる。

 ぶっちゃけ、もうちょっと、なんというかサポートしてもらえると思ってたけど…そういうのは自分でもぎとらないといけないのだな、と改めて実感した。

 お客様じゃない。選手が第一だし。わかってる。しゃーなしやけど、些細なことだけど、良いことと悪いことが交互に押し寄せてくる、そんな感覚だった。

 第一ステージを前に、えらい情緒不安定になってしまった。

 ぐんにゃりしたまま、第一ステージのタイムトライアルの会場へ。コースはユトレヒトの街中だ。

 選手たちはタイムトライアルバイクに乗って自走で向かう。

 ホテルの駐車場で出待ちをしてサインをもらっていた子供たちがそれを追ってわ〜っと走り出したのがかわいかった。

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 余談だが、シャヴァネルは長いツールに備えて、いつも初日に向けてばっさり散髪するようにしてるらしく、ツールの序盤はほとんど角刈りみたいになってる年が多い。けど今年はそうしていなくて、私の大好きなゆるく巻いた茶色の髪がほどよい長さのままだ。生で見られたこのタイミングで、私の一番好きな髪型でいてくれたことはすごいラッキーだった。

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 私もチームの車に乗って会場へ移動する。ホテルの周りにある木々が、四賞ジャージのカラーに装飾されていることにここで気付く。さすがツールだ。お祭りだ。

 すっかりツールムード一色の街中を抜けて、会場へ到着。

 到着するとすでにチームのブースは出来上がっていた。

 チームテントは平行に駐車したチームバスとメカニックトラックの間に天幕を張って影を作り、選手たちはそこでアップをするという仕組みになっている。選手たちは空調の効いたチームバスの中で、自分たちの出走順を待つという寸法だ。

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 選手と監督がバスの中でミーティングをしている間、スタッフたちは円陣になってこれからの心構えなんかをもう一度確認しあう。フランス語ができないスタッフもいるので、このミーティングは英語だった。

 細かいことだと、こちらのクーラーボックスの中の飲料は選手のためのものだから飲まないように、スタッフ用の水とかコーラはこっち、とかそういうこと。昨日買い出しに行っていた大量のコーラはこういうところで消費されるのか、とわかる。

 私はといえば、邪魔にならないようにと釘を刺されたことにビクビクしているので、テントの外側でニンジャのように撮影したいた。でもさすがに日向に居続けたら死ぬと思ったので、柵の外にある日陰に滑り込ませてもらう。

 その中で、CEOだけは「なんで外にいるんだ! こちらに来なさい! 座るといい!」と激しく親切なのだが、他のスタッフの手前な〜〜〜。

 彼だけが私をお客様として扱ってくれる。トップあるあるだ。けれどトップのお墨付きをもらったので、ありがたく椅子に座ってしばらく過ごさせてもらった。

 プレゼンの日にはしゃいで使いすぎたポケットwifiの容量がやばかったので、このタイミングでチームバスのwifiのパスワード教えてもらう。

 バスの外でもギリギリ届くので、バスにへばりついてツイッター廃人をやっていた。

 隣がクイックステップのバスだったので、ついでにミーハー行為をさせてもらっているあいだにお昼の時間に。タイムトライアルのスタートは昼過ぎなので、準備に忙しいスタッフ、そして私にも昼食が配られた。

 小さなタッパーに入ったピラフ? 混ぜご飯? みたいなものだ。パプリカとか、コーンなんかが入っていた。素直に米だ、と喜んだ。こういうのを用意しているのはマッサーだろうか。お米はけっこうもっちりしてて美味しかったけど、暑さのせいか緊張からか、半分くらい残してしまう。

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 チームテントには、入れ替わり立ち替わり取材のためのメディアや、スポンサーや、いろんな人がやってくる。

 選手はそれに対応するためであったり、自分のバイクのセッティングの確認や相談をするためにメカニックと話しに時折バスから出てくる。そういうのを淡々と、内心ワクワクしつつ写真に納める。

 ところで、これはこのあとずっと困ることになるのだが、チームテントのエリアが広大すぎて迷子を恐れてあまり遠くへ行けなかった。

 それから、毎日スタート地点やらヴィラージュやらのレイアウトが変わるのも厄介だった。ルートマップの本を見れば確認できたようなので、毎朝確認させてもらえばよかったな。

 タイムトライアルのスタートが近付き、Alfonsoが横断幕を取り出してきた。どこかに貼ってくれるのか、と思ったら彼はまずチームバスの中へ。どうやら選手に見せてくれたみたい。

 そのまま運転席のフロントガラスのところに横断幕を張りながら、みんな喜んでたよ! と私に向かってサムズアップしてくれた。

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 そうするとクレメントさんが早速「おれってこんな風に見えるの?」とツイッターに写真をアップ。彼にはまだ挨拶ができていないので、私の似顔絵は初見だったのだろう。あの…それどういう…意味…。

 しかしこの年は異常な暑さ、とは別の章で書いた通りで、フロントガラスのところで直射日光をモロに浴びた横断幕はしばらくするとあっけなくべろりと剥がれてしまった。

 こりゃだめだってことで、選手たちがアップする日陰部分の、バスの側面に貼り直してもらった。いろんなスタッフがああだこうだと試行錯誤して貼ってくれて、ありがたいやら申し訳ないやら。

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 ちなみに、これ、車体にテープの跡が残るというので運転手のFrancisからクレームが入ったらしく、この後は一切貼ってもらえなくなった…残念。しかし一日中バスを駐車しているのはタイムトライアルの日ぐらいなもので、他の日は一時間もせずにスタート地点を引き払ってゴールへ向かうのだから、貼りたくても貼れなかっただろう。

 選手たちが次々にアップに出てくると、ギャラリーも増える。

 日本人ジャーナリストにみなさんも取材に来られるので、少しお話させてもらう。その流れでうっかり日本のサイトに写真が載ったりした。

 しかし、暑い。

 クーラーボックスからコーラをもらって飲む。

 コーラって実はあまり好きではなかったのだが、あんなに美味しく感じたのは人生で初めてだったかもしれない。

 あまりの暑さにこれから先が思いやられると思ったが、スタッフがずっと外で待機しなければならないのはタイムトライアルの日ぐらいで、あとはスタートを見送れたばそのあとはほとんど車で移動しているのでそこまで心配しなくてよかった。

 タイムトライアルは淡々と進む。

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 みんな順番にバスから出てきてアップしては、コースへ向かい、戻ってきて、ダウンして、バスに入る。監督たちはチームカー二台体制で後ろについているので、始まってからはずっとコースに出ていて顔を見ていない。

 チームバスの側面には出走順も書いてあるので、あと三人くらいで終わりかあと思っていると、突然、「チームカーに乗りたい?」言われてエッとなる。

 どうも、これから出走するパンタノの後ろにつくチームカーに乗せてもらえるという。

 そんなの、乗りたいに決まってますがな!

 パンタノのご友人と一緒に乗るようだ。二人でウキウキしながらコースへ向かう。スタッフたちは毎年のことだろうが、私と彼とは初めてのツール体験にウキウキしているのでテンションが合う。共感できる数少ない同志というわけだ。

 コースではチームカーが待機していた。

 招待者のパスではコース近くへは入れないので、先にチームカーに乗り込んでからコースへ出るらしい。後部座席でホイール持ってたメカニックが、二人も乗るのかよとめちゃくちゃ嫌な顔をしていた。ごめんな。

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 ぎゅっと乗り込んで、出走したパンタノを追ってチームカーは走りだす。

 これが、初チームカー体験である!

 ジャパンカップでお金払ったり抽選で当てて乗り込むやつじゃない、ここはツールだ!

 ずっとチームテントのエリアにいたので、街の熱狂はそれまで全く見ずにいた。

 車内ではほんとうに感動した。

 沿道には、人、人、人。みんな笑顔だ。熱狂している。そして街中にはツールを歓迎する飾り付けがいたるところにある。

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 今更だけど、私とてつもない視点からの初ツール体験なんじゃないの、と思いながら後部座席でメチャメチャに揺られる。

 ユトレヒトの街中はかなりカーブが多く、すさまじい運転だったのだ。さすがに酔いはしなかったが、暑い中で疲れていたのでぐったりした。駐車場で走り終えたパンタノを出迎えて、そのまま歩いてチームテントへ戻る。

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 いやはやすごい体験をさせてもらえました…と、もう終わったみたいな顔をしていると、見たことのある人を見かけて思わず声をかける。

 元シマノレーシングの飯野嘉則さんだった。

 日本のレースを見始めた頃に、何度かレースでお見かけしていた。引退後はシマノで開発のお仕事をされているそうで、今回はその一環でシマノの社員としてツールに来ているという。

 懐かしいお話をしたりして、しばし癒し。帯同中、完全にツールに来ている日本人との触れ合いを癒しポイントにしていたフシがある。ホームシック強め。

 IAMの最終走者はコッペルで、彼を見送ったらテントは彼用のダウン機材を残して撤収準備をはじめる。

 彼が戻ってきたらダウンを待たずに、他のスタッフはあっさりと熱狂に包まれた会場を離れる。

 現地にいると、誰が勝ったかも、チームメンバーの順位もわからなかった。生中継を見ているツイッター勢の情報が一番早かった気がする。

 ホテルに戻ってからは、時間が空いたのでRoxaneたちと本の内容についての打ち合わせ。

 それから、せっかく私が現地にいるからリアルタイムでなにかしたいねという話になった。なので、私が毎日レース後に絵を描くから、それをアップするのは? と提案する。

 この日は、チームテントで選手のアップ用の扇風機の風を浴びるCEO達お偉方のコミカルな姿に、餃子たんのイラストを書き足してアップした。

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 そうやって私はその日決めたことを毎日粛々とこなしていたのだが、公式ツイッターを運営しているThibaultは正直SNSの更新に熱心なタイプではなく、私の投稿を公式アカウントでRTしてくれるわけでもなく、ただただ私がイラストをアップして、フォロワーが見てくれるだけということになっていった。

 これもきちんと本人に要請するなりして、取り決めをしておけばよかったのかな?

 いや、したか! 何回かしたぞ! 私はがんばったぞ!

 正直それどころではなかったのだろうが、ちょっと寂しかった。私何をやってるんだろう、とさえ思った日もある。このあたり、今思えばもっとうまくやれたんじゃないのかな、と思ったりする。後の祭りだけど。

 打ち合わせを終えたあと、なんとAlfonsoが、僕は今日で帰るから、あとはRoxaneに任せたから、がんばってね、とサラリと告白。

 うっそー! 何度目かわからない、聞いてないよ、である。

 今のところ一番話しやすくて、ちゃんと私のことを気にしていてくれたのはAlfonsoだ。しかも、CEOも帰ってしまうという。

 あ、優しくしてくれる人全員いなくなるわ。

 私、孤立無援だな?

 大変だ、先が思いやられすぎる。

 やるしかないとはわかっていても、不安は消えなかった。

 しかしこれまで丁寧にサポートしてくれたAlfonsoにはしっかりお礼を言って、お別れをすます。

 そういえば、チームが戦っているのはツールだけじゃないんだよな。同時進行で他のレースもあるのだから、ツールがいくら大事なレースだからといって、それにだけ注力することはできない。

 チーム運営というのは大変だ。

 グランデパールを見届けてスイスへ戻るスタッフを見送ると、ユトレヒトの街がようやく夜闇に包まれていく。

 三日を過ごしたユトレヒトとも、いよいよ明日でお別れ。

 広げすぎた荷物をパッキングして、日本から持ってきたほっとアイマスクをして寝る。

 明日からはいよいよラインレースになる。

 本当の旅の始まりだ。

Gyoza meets IAM TDF2015 #4 | Flickr

本文試し読みはここまでです。
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【TDF帯同記 試し読み04】お出汁欠乏症

 滞在二日目。

 まだレースは始まっていない。

 今日って何をする日だっけと思いながら起きた。

 疲れと緊張からぐっすり眠ったおかげで、幸いにして時差ボケはほとんど感じなかった。それよりも、寝る前にステッカーを切っていたので指が痛い。日本にいても海外にいてもギリギリ進行。やっていることがほとんど変わっていなくて情けない。

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 滞在しているホテルはかなり高級っぽいホテルだ。ツインを一人で使わせてもらっている。バスルームが広く、バスタブがあるのも嬉しくて、昨夜は眠たかったけど意識してゆっくり浸かった。この先のホテルにもあるかはわからなかったからだ。

 前日に、朝食は何時からと言われた通りの時間に行くとスタッフの何人かがまばらに食事をしていた。

 どこに座ろうか、というのも悩む。悩んでいたら、ミラノで会ったスタッフがいたのでそこにお邪魔する。まだ心臓を弾ませながら「おはよう」と言う。

 みんな、ちゃんと眠れたか、疲れていないか、と気遣ってくれる。昨晩の夕食で私の英語が壊滅していることがバレたので、話しかける言葉も多少ゆっくりになっていた。ありがたい。

 オランダ最初の朝食は若干覚悟していたけどわりとまともでほっとする。さすがにミラノで食べたものよりかはグレードダウンしてるけど、スクランブルエッグとかベーコンとか、暖かい食べ物もあるし、美味しかった。

 一緒のテーブルのスタッフからはまだ質問が相次ぐ。どういう会話をしたのかは、返答を考えるのに必死すぎて飛んでるのだが…。

 夕食では見かけなかったが、スタッフの朝食会場は他のチームと一緒だった。

 同じホテルにはクイックステップとユーロップカーが宿泊していて、どちらのチームにも好きな選手がいる私はミーハー心がくすぐられて大変だった。

 あっあのスタッフ知ってる、とか、うわーコカール青年(フランス人スプリンター。顔がかわいい)がいる! あっちには(みなさんご存知)トマ社長だ! みたいなドキドキが、ホテルのいたるところで起きるのだ。心臓が持たない。このツールにはボーネンが出ていなかったが、出ていたらどうしていただろう。倒れていたかもしれない。

 ちなみにシャイな餃子が一番困ったのは、好きな選手を見かけたとき、廊下で行きあったときのリアクションだった。関係者としてホテルにいるわけだから、キャーキャー言っていいのか、みたいなことだ。結局(あっ…いる…)というソワソワとニヤニヤを押し殺してすれ違うだけ、という情けない結果になった。

 まあ、これは日本のレースでも同じなのでしょうがない。友達の推しへならいくらでも突撃していけるんだけどな。代わりに、自分の推しへ突撃していくときは友達についてきてもらうのだ。これを「共生関係」と呼んでいる。

 食事を終えてカメラを取りに部屋に戻り、急いでホテルの駐車場へ。このあたりから、朝食→駐車場でメカニックの仕事を見学、というのが毎朝のルーティンになっていく。ぶっちゃけ、私が勝手にふらふらと写真を撮れるのが駐車場にいるメカニックだけだったのだ。

 明日からのレースに備えてメカニックが自転車の整備をしたり、かと思えば買い出しをしてきた消耗品を前にこれからの打ち合わせをしているスタッフもいる。

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 そこへはいつのまにかファンが集まってきていた。熱心な地元のファンがほとんどだ。ジャパンカップみたいに小規模なエリアじゃないのに、選手の泊まるホテルをどこから聞きつけてくるんだろう。四賞ジャージを狙うチームのホテルはもっとすごいんじゃないかなと思う。

 あとから、ツールのコースマップなどが載っているリング綴じの本を見せてもらったら各日のホテルの割り振りまで載っていた。ああいうのから流出するのかな。

 日差しが強くなってきたので退散しようと屋内へ戻ると、Alfonsoから声をかけられる。

 明日から怒涛の日々だから、今日はホテルでゆっくりしてもいいし、これからみんなでプレスカンファレンスに行くから着いてきてもいいよ、とのこと。

「行く!!」

 やめとけばいいのに、なにひとつ見逃してはいけないと思っていたので即答した。

 そうして、メカニックやマッサーなど、ホテルへ残って作業をするスタッフを残して、チームバスとチームカーはプレスカンファレンスの会場へと出発した。

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 会場は、大阪でいうと南港のATCみたいなところだった。あそこはどういう建物だったんだろう。

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 建物内のザ・記者会見場みたいなところで、続々とやってくる各チームが順番に会見をするようだ。会見自体はするするとつつがなく終了したが、そこからが長かった。選手たちの個別の取材などがあるのだろう。同行しているスタッフ共々待機の連続である。さすがに業を煮やして、数名のスタッフを残してホテルへ帰ることになったので助かった。スタッフは大変だ、という認識を強める。

 そういえば、会見場でジャーナリストの寺尾真紀さんとお会いすることができた。事前にこういう事情でツールへ行きますと伝えていたので、本当に来てしまったんですよ…と言った。まだ二日目だというのに、久しぶりの日本語にほっとした。やはり相当緊張しているらしい。

 屋内にある駐車場へ戻ると、取材を終えてジャージに着替えた数名の選手たちがいた。乗ってきたチームバスでは戻らず、タイムトライアルバイクでそのままコースの下見に行くために準備中だった。チームが乗るスコットのスタッフもやってきており、新機材の様子を見る目的もあるのだろう。

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 タイムトライアル仕様のジャージとバイク、かっこいい。そういえば、全員初日写真に撮ってもいいけどアップしないで、と言われたヘルメットを被っている。今日も広報スタッフに釘を刺される。タイムトライアル初日のお披露目までは内緒なのだそうだ。内部情報〜〜〜〜!! こういうのもドキドキする。

 そして、今日はステージの上じゃない選手たち。近い。みんないる…と改めて興奮するがまだ私は選手に紹介されていない。怪しい東洋人は継続中なので、駐車場の隅でこそこそと写真を撮るだけにとどめた。

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 これはこれで怪しいな。

 選手たちを見送ってホテルへ戻り、昼食。

 前日の夕食に続きバイキング形式だったが、中華メニューがあって「まひろ! これは君のためのメニューだね!」と親切で言ってくれたんだろうけど「これは!!! チャイニーズ!!!」と反論する余裕が出てきた。お出汁が恋しい。しかし私は梅昆布茶すら買い忘れている。お出汁が恋しい、とツイッターでつぶやくと、「もうかよ!! はえーよ!!」と総ツッコミ。

 そして「お出汁は幻よ…」「お出汁 イズ 逃げ水」と粛々と諭されてしまった。

 はい…。

 昼からはほんとにダラダラしよう、とは思ったには思ったが、いやいや待て資料を撮影しなければいけないのでは? という強迫観念は消えない。少し休んで、ふらふらと外に出る。

 案の定駐車場ではメカニックがバイクを整備中。駐車場にずらりと並んだチームバスとチームカー、メカニックトラックが壮観である。

 白をベースに、紺色、赤の差し色を使ったIAMのアートワークはスカイなどとも違うスタイリッシュさで、私はかなり好きだった。

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 カメラ持ってうろうろしていると、集まっているファンのほうに声をかけられる。朝と同じで熱心な地元のファンたちだ。おじさんが多い。君はスタッフか、と聞かれたので、なんで私がここにいるのかを説明したら、「すごいな!」と歓声を浴びた。プロ観客のテンションは国境を越えるんやなあと思いながらしばしお話しを楽しんだ。選手たちのスケジュールは把握していないので彼らに有益な情報を教えてあげることはできなかったが、目当ての選手にサインをもらえただろうか。

 メカニックの写真は売るほど撮れたので、ホテルの中庭みたいなところでのんびりスケッチをすることにする。

 シャヴァネルに関しては目をつぶっていても描けるのだが、他の選手は難しい。でも「似顔絵の描きがいのある顔」というのが個人的にあり、それを刺激されたのであれこれスケッチをしていた。

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 湿気がないので日陰にいればずいぶん涼しい。

 そこにやってきたのがパンタノのご友人だった。Reneという名前の彼はプロローグから数日、VIPとして招待されているようだ。

 スペインのマヨルカ島で、自転車であちこち巡る観光ガイドのような仕事をしているそう。日本に、スペインに、来ることがあったら連絡してね、とお互いに言い合う。

 VIPというか、家族・親類や友人を招待している選手はちらほらいる。そういえば監督のリックは小学生くらいの息子さんを連れてきていた。学校は…と聞いたら夏休みだって。そりゃそうだ。学生時代が遠い昔すぎて失念していた。本来Roxaneはこういう人たちの対応をするお仕事なのだな。

 彼にも、私がここにいる事情を説明する。前例のないことでびっくりされる。そりゃそうだ。私もびっくりし続けている。 昨日からめちゃめちゃ緊張してんの〜英語もへたくそだし…とついつい自虐に走り、ぐんにゃりしてしまう。通じてるよ大丈夫だよ、と慰めてもらった。パンタノに似て笑顔がにこやかな人で、話しやすくて癒された。

 この年はオランダ・ユトレヒトがツールのスタートということで、ディック・ブルーナコラボでツール仕様のミッフィーグッズがたくさん販売されていた。どこかで買いたいなと思っていたら、ロビーで売ってるのに気付いてフロントで購入。四賞ジャージを着た10センチくらいのミッフィーのマスコットだ。Jスポーツでも販売されていたので、覚えている人もいるだろう。ぬいぐるみもあったので買えばよかった。スーツケースの容量を心配して結局買わなかったのを後悔している。

 部屋で日焼け止めを紛失してスーツケースをひっくり返して大騒ぎをしているうちに、夕食の時間。

 今日はチームバスの運転手のFrancisから、「日本人は無宗教というのは本当か」と聞かれ(ド定番のやつキタ!!)と興奮したが結局うまく説明できずに撃沈した。

 信仰とか宗教とかの単語をアプリの辞書で調べながら話したけど納得してもらえなかった。

 個人的に、大枠での「日本人」は無宗教ではないと思っている。「食べ物を粗末にするとバチが当たる」とかそういう感覚はちょっとした「信仰」だよなあと思う。ただ明確な教義のあるひとつの神様を信じていたりとかするんじゃないわけで。

 八百万の神様であったり、アニミズムの概念が理解されにくいんだな、ということがわかった。でも結局そこから一つ選ぶんだろう? と言われてしまうのだ。一神教の国の人に多神教の話しても全然ピンとこないみたい。難しいね。

 変に頭を使ってこの日も終わり。

 そして、おい! やっぱりまだ選手に紹介されてないぞ!

 一応、そういえば選手にまだ紹介されていないのだが…と聞いてみたけど、みんな忙しいから、とピシャリ。

 アッハイ。

 そのほかにも、聞いてないよそれ、みたいなことも多々あり、疲労と緊張とストレスがマックスになっていた。

 あーもうなんかいろいろ大変だよ!! つらい!! とツイッターで愚痴っていたら、どういう話の流れだったのかはわからなくなってしまったが、私の珍道中を見守っていたフォロワーのひとりが「Taking chances and have struggle」と呟く。

 私がそのツイートを見たのは、ツールに出場するチームが宿泊するホテルになって用意されたのか、自転車の絵が飾ってあるロビーでだった。

 その絵を見上げながら、自転車レースと同じなのかなあ、と思った。

 ここまで来たんだもんな。

 大変でも、ままならなくても、やるっきゃないんだよな。

 そうだった。

 しんどいことばかりではない。夕食の時に、直前まで懸命に描いていた選手たちの似顔絵で作った横断幕をチームにプレゼントしたらすごく喜んでもらえた。明日、チームバスに貼ろうな、と一番はしゃいでいたのはCEOだった。

 こういうひとつひとつの嬉しい、で生き延びるしかない。

 ちょっと悲壮な決意だったけど。

Gyoza meets IAM TDF2015 #3 | Flickr

【TDF帯同記 試し読み05】酷暑のツールより餡を込めてへつづく)

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【TDF帯同記 試し読み03】推しは近くて遠い

ツールの帯同は、二週間、最初の休息日前日までとなった。

チームプレゼンの日にグランデパールの地、オランダ・スキポール空港へ到着。第9ステージのチームタイムトライアルの日の朝にナント空港へ向かい、シャルル・ド・ゴール空港経由で関西空港へ帰国するスケジュールだった。

休息日にキャッキャウフフする選手を生で見られないのは残念だったが、今になって思えば三週間みっちり帯同していたらホームシックと疲労で廃人になっていただろう。

飛行機の手配はチームがやってくれた。

仕事を片付け、新しく餃子たんのステッカーを量産し、ツールの出場メンバーが判明してから急いで似顔絵を描いて横断幕を作る。

そうしているうちに、あっという間に渡欧の日がやってくる。

荷造りは悩んだ。二週間の長旅なんていうのは経験がない。トランクの都合もあるので荷物は最低限にしてほしいと言われたが、洗い替えで一体どれぐらいの量の服が必要なのか、取材といっても何を持っていけばいいのか。カメラと、スケッチブックと筆記用具? 私が思いつけるのはそれぐらい。

おまけに、その年のヨーロッパはかつてないほどの熱波に襲われており死ぬほど暑いという情報まで飛び込んでくる。

冬のイタリアにしか行ったことがない私にとって、ヨーロッパの夏はテレビで見るツールそのものだ。けれど映像は気温までは伝えてくれない。暑いといってもどれぐらいなんだろう。日本という湿気の国で育った私には全く想像ができなくて、とにかく日焼け止めや暑さ対策になるものを片っ端からスーツケースに詰め込んだ。

洗濯はチームバスの洗濯機でやってもらえるという。チームからTシャツやなんかも支給するから。心配しないでいいから。私はその言葉を素直に信じて、三泊四日ぐらいの荷物で欧州へ経つことになった。(これがいけなかった)

きっと日本食が恋しくなるだろうなと思っていたが、カップラーメンとかは嵩張って荷物になりそうだったので諦めた。(これを諦めなければ良かった…)コンパクトだしミラノへ行く時も持っていったほうじ茶と梅昆布茶を用意するつもりだったのだが、結局仕事が忙しすぎて空港で調達することにしたらほうじ茶しか手に入らなかった。最初からツイてない。おまけに、当然だけど死ぬほど緊張している。この時点でもまだ現実感がない。IAM仕様にデコってもらったネイルを見ても、搭乗しても、夢なんじゃないかと思う。そのへんの人捕まえて、私今からツール・ド・フランスへ行くんですよ、観客としてじゃなくて、チームに帯同するんですよって言って回りたかった。情緒不安定にもほどがある。

平日の昼間の便はガラガラで、三席使って横になることができたが、ほとんど眠れなかったのでアベンジャーズ:エイジオブウルトロン(当時の最新作)を見て過ごした。

機内の小さい画面で見るもんじゃない上に、映画の内容にお気持ちをめちゃめちゃにされてひどかった。

到着直前にさすがにうとうとした私を乗せて、飛行機はあっさりとスキポール空港へと到着する。

関西空港発だったこともあり、客室乗務員には日本人も多かったのでまだヨーロッパに来た気がしない。

航空会社がKLMということもあって、唯一機内食についてくるプラカップに自転車の模様がついていることだけが、私にオランダという国を意識させた。

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すんなりとパスポートチェックを終えて到着ロビーに出ると、IAMのロゴが入ったポロシャツを着た女性が出迎えてくれる。

彼女の名前はRoxane。ツールではスポンサーなどのVIP対応の仕事をしている女性だ。とはいえ私はVIPなどではないのだが、滞在中はほとんど彼女にお守りをしてもらうことになった。

しかしチーム側も、私がこれほど英語を喋れないとは思わなかっただろう。(メールは友人に校正もしくは代筆してもらってますって何度も言ったじゃん!)

空港から、ユトレヒトへ向かう車中がまず最初の地獄だった。

自己紹介はできる。けれどそれに投げかけられる質問を聞き取ってまともに返答することすら怪しく、色々とたずねてくれるのに、聞き返すことが多かったり返答に詰まったりで、私の気持ちはベッコベコにへこんでしまった。

来日した海外の選手と話すことはあるが、だいたいはサインください、写真撮ってください、日本に来てくれてありがとう、だ。そのほとんどが会話とは呼べないもので、「日常会話できます!」の要求スキルの高さはえげつないのだ、という話を、今更思い返していた。しかし、時すでに遅し。持っている英語力でなんとかするしかないのだ、とも同時に思う。ついでに、有料の辞書アプリを入れた。背に腹は変えられなかった。

しかし、それによってやっと実感がわいてきた。

最初、私は空港でピックアップしてもらった時間からすると、そのまま生でチームプレゼンテーションが見られるのだろうと思っていた。しかし、どうやらロクサーヌはこのままホテルへ向かうつもりらしい。

「あのう、まっすぐホテルへ行きますか? 私チームプレゼンテーションが見たいんです…」

おずおずと言い出した私に、Roxaneは目を丸くする。

だめかなあと思ったが、彼女は少し考えた後、先にホテルに荷物を置いてからね、と淡々と返事をして、了承してくれた。

ホテルは、ユトレヒトの街の少し外れの、森の中にあるみたいなホテルだった。

フロントでチェックインをすませ、荷物を置いたらタッチアンドゴーで、再びRoxaneの運転でチームプレゼンテーションの会場へと向かう。

しばらく走ったところで、私を乗せた車はチームバスの駐車場になっている路上にたどり着いた。一帯を通行止めにしているようだ。チームバスだ! 日本にいたら、まずお目にかかることはない、プロツアーチームのバスがずらりと並んでいる。 そして、ミラノぶりの推しチームのチームバスに、テンションがあがる。

しかし中に選手がいるのかなあと思ったら、そこにいたのはバスの運転手であるFrancisだけだった。

英語が堪能なRoxaneと違って、フランス人の彼とは英語でのコミュニケーションが怪しい。(勿論、私なんかよりは十分堪能だ)それでもまだドギマギしている私をにこやかに出迎えてくれて、軽くバスの中を案内してくれる。

(私チームバスの中に入ってる!)

海外へ来た、という実感とは別の実感が、遅れてやってくる。

車内には初日のタイムトライアルに使う用のヘルメットが並べてあり、スコットのニューモデルで今日届いたばかりのものらしい。まだお披露目してないから写真は撮ってもいいけどネットにアップするのは待ってね、と言われる。神妙に頷きながら、裏方っぽい、と感激した。もうなんでも感激する時間帯だった。

バスの中を堪能した私は、Roxaneに連れられていよいよプレゼン会場へ向かう。

事前に送った顔写真(自撮り)がプリントされたパスを渡され、餃子隊員はついに「関係者」になった。

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そこからは、進む道進む道、すべて「柵の内側」だ。

警備員と、揃いのユニフォームを着たボランティアスタッフに見送られてずんずんと歩く。柵の外側の観客からは、あの東洋人、誰、という顔で見られているような気がした。被害妄想。

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会場は公園の中にある広場で、大きなステージの前に客席があり、さながらライブ会場のよう。このあたりはグランデパールの地が街をあげて企画するのだろう。毎年違った演出をしていた記憶がある。私が会場に入ったタイミングでは、前座のパフォーマンスのようなものが行われていた。

どうやらチームごとに客席が割り当てられているようで、Roxaneが案内してくれた場所にはすでに先客がいた。

「やっと会えたね!」

朗らかに挨拶をしてくれたのが、最初に私にコンタクトを取ってくれたAlfonso。

その向こうで鷹揚に微笑んでいたのが、チームのCEOであるMichel Thétaz。つまり、この人が私を欧州に、ツールに呼んでくれた人だ。あと数人もしかしたらその場にいたかもしれないが、ちょっと記憶を失っている。だって舞い上がっていたのだ。再び、彼らから質問攻めにされながらプレゼンテーションが始まるのを待つ。Alfonsoはイタリア人で、英語がかなり聞き取りやすくて助かった。

ちなみに、ここでステージの近くに見知った顔を見つけて私の心はかなり落ち着いた。

シクロワイアードの編集長、綾野真さんだ。当然取材で来られているのでお仕事中である。邪魔をするわけにはいかないので声を掛けはしなかったのだが、そのときやっと知っている人を見つけてずいぶんほっとしたのを覚えている。

さて、いよいよチームプレゼンテーションがはじまる。

とはいえ客席にいると状況がさっぱりわからず、ツイッターを確認するとどうやら選手たちはチームごとに運河を船で進み、会場入りをするらしい。

えーなにそれめっちゃかわいい。見たかった!

生で見ることは叶わなかったが、船から降りてくるところは大型ビジョンで確認できた。そしてどんどんチームが登場し、ステージで紹介される。

さあここからが取材だ。

いつもレースを観戦しに行くのと装備が大して変わらないが、一眼レフを構えて写真を撮りまくる。「ファン」にしてはガチめの装備に、同席しているチームの面々からはそのあとさらに質問攻めに遭うことになるのだが、それはまた別の話。

インタビューでは、フランス人選手に英語で回答をさせるというプレイが横行していた。プロトン公用語が英語にシフトしていくにつれて、こういうことが増えた印象がある。

だというのに、私が放り込まれたチームの公用語はどうやらフランス語らしいということに、頭上で交わされる会話を聞いてようやく気付く。

Alfonso、ちょと待って。私が英語得意じゃないんだよ、と弱気だったのに、「大丈夫大丈夫!」と言ったのはもしや、「(チームの公用語はフランス語だから、英語だけできても一緒だよ)大丈夫大丈夫!」だったのでは!? 不安材料がまた増えてしまったな…。

と、再びへこんでいたところで、どんどん選手はやってくる。

個人的に、この年のツールは私にとってはゴールデンメンバー勢揃いだった。

めっきりツールからは遠ざかっているトム・ボーネンを除けば、一目見たかった選手はほぼほぼ出場していたのだ。

ミラノでもミーハー行為をしたが、セバスチャン・シャヴァネル、それからナセル・ブアニ。母が大ファンであるアルベルト・コンタドール。その他にも大勢。

まさか自分のカメラで撮影できる日が来るとは思わなかった面々に向かって、夢中でシャッターを切った。

この日の写真だけで、五百枚を超えている。

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あのねー、ここまできて私まだ推しを一目も見てないわけ。長いの。中休みにバンド演奏などもあるので、現地にいるとチームプレゼンって余計長く感じる。当たり前だけど、サッシャさんと栗村さんの雑談もない。でもとにかく舞い上がってるからツイッターで実況しちゃうの。現地なうだからね。家で見てるのと変わらんやんみたいな自分の実況のログを確認してちょっとげんなりした。ツイッター廃人め。

しかし、異国の地で、右も左も分からないまま、夢のような状況に放り出されてもなんとか気を確かに保っていられたのは、そうやってツイッターで「いつもの面子」と繋がっていられたおかげかもしれない、と思う。感謝。

突然ツールのチームプレゼンテーションの、しかも客席エリアに出現した餃子隊員に、事情を知らないフォロワー諸氏は随分驚いていた。私もまだびっくりし続けてるから、お互い様だわね。

IAMサイクリングは、中盤にやってきた。

ステージ脇のスロープから、9人の選手が自転車に乗って登場する。シャヴァネルも、いた。

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ミラノのときよりも絞れて見えた。いる。やっぱり推しはいるのだ。けれど、まだ遠い。ステージが遠い。ファインダー越しだとさらに現実感が失われる。でもシャッターは切らなきゃ。記録に残さなければ。混乱である。キャー、とか言えない場所に座っている。平静を保っているふりをしているあいだに、彼らの出番は終わった。

「…居たわ…」

という、あまりにもそのまんまな感想だけが残った。

最後のチームの紹介が終わり、チームのみなさんと一緒にぞろぞろと退出する。選手と一緒にホテルへ向かうのかな? もしかしてチームバスに乗れるのかな? そういう期待をしたが、選手たちはとっとと自走かチームバスでホテルへ戻ったようで、さきほどの場所までえっちらおっちらと公園内を歩き、停めてあったチームカーでホテルへ戻る。

時間はすっかり夕暮れ。

ホテルへ戻った私は、いろいろなスタッフに行き合うたびに紹介をされまくった。最初なので、みんなかなり物珍しげに色々と質問をしてくるので大変だった。そして、ここから人の名前を覚えるのに苦労することになる。

途中から、相手にお願いしてノートに名前を書いてもらって、そこに自分でこの人はどういうポジションのスタッフで…なとど覚え書きをしたり、さらっと似顔絵を描いたりするようにした。これがちょっと好評で、良いコミュニケーションツールになった。

ちなみに、ホテルに戻ったら選手たちに紹介するからねなどと言われていたが、選手たちは早々に食事やマッサージを終えて部屋に引きこもってしまっていた。紹介はまた明日ね、と言われてすごすごと引き下がる。でも、紹介されないまま朝ふらっと顔を合わせたらどうしよう。変な東洋人のファンがうろうろしてるって思われるんじゃないかな。妙なところで不安になったりする。だって推しはフランス語しか喋らないんだぞ…。

選手の食事会場は会議室のようなところを借りているようで、食事中に一般客や他のチームなどと顔を合わせないでいいようになっている。当然だが、選手第一な環境が伺えた。

同じホテルだったユーロップカーなどはキッチン部分とレストラン部分を備えるバスを帯同させているのだから、食事の際に部外者の目がないというのは選手のストレス軽減に一役買うのだろう。

夕食はスタッフと一緒にとることになる。スタッフの食事は、朝は選手よりも早く、夜は選手よりもあと。以前中継で、選手よりも早く起きて選手よりも遅く寝るとかそういう話をしていた解説者の方がいたと思うが、まさにそれだった。

夕食の際に、改めてスタッフ全員に紹介された。

さすがにツールということもあって、ほとんどのスタッフが揃っているらしい。初日だけ見たらあとはスイスのオフィスに帰るというスタッフもいるようだが、やはりそれだけ重要な大会なのだと感じる。そりゃそうだ。

ここまでくると、めちゃめちゃな英語でも通じれば儲けもんぐらいに若干開き直ってくる。なんでも聞いて、私がダメでもグーグル翻訳ががんばって答えます。

イタリア人監督のマリオに、「クキ(?)を知っているか」と何度も聞かれ、どうやら永井孝樹さんのことであるとわかったり(自転車の世界でご活躍の日本人選手・スタッフの存在、めちゃめちゃにありがたかった。知っている限り名前を挙げて話を繋いだ)、なんやかんや話せないなりになかなか楽しい食事で、その日を終えた。

Gyoza meets IAM TDF2015 #1 | Flickr

Gyoza meets IAM TDF2015 #2 | Flickr

【TDF帯同記 試し読み04】お出汁欠乏症へつづく)

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mahirossimo.hatenablog.com

TDF帯同記 登場人物紹介

まひろa.k.a.餃子隊員

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著者。日本のロードレースファン。

大阪生まれ大阪育ちのオタク。

いろいろあって、拙すぎる英語力でフランス語が公用語のチームに帯同するかたちでツールに招待される。

ビビリの人見知り。

餃子たん

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著者の友人が、ジャパンカップを応援するために描き始めた非公式マスコット。フェルトで出来たストラップ。または、それにチームジャージを着せたり表情をつけたりして著者がキャラクター化したもの。

餃子たんがいなければ私がツールへ招待されることもなかった。

すべてのはじまり。感謝。

シルヴァン・シャヴァネル

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推し。フランス人自転車選手(2020年現在はすでに引退している)。

好きな色はピンクで、自転車選手になっていなかったら俳優になっていたらしい。寒いのが苦手。

頑なに英語を喋ろうとしない、などの事前情報にビビり倒していた。

カタカナに直したフランス語をいくつか覚えていった餃子隊員だが、果たして…。